日本ではかつてのキャンプブームにあやかって、ひんぱんにキャンプに出掛けていた時期がある。テントはもとより、ランタンや調理器具などを当時乗っていた4輪駆動車に満載し、富士山のふもとのキャンプ場などでかなりワイルドな野営をして楽しんだものだ。
タイに住んでからはどうかといえば、年間を通じて暑いのと、地方へ出かければ何もキャンプをしなくても、リゾート施設のバンガローなどに泊まれば自然をたっぷりと味わえるのでキャンプからは遠ざかっていた。
ところが数年前からタイでもキャンプがブームとなり、中でもゴージャスなグランピング施設が注目を浴びるようになっている。僕はグランピングの経験がなく気になっていたところ、友人の誘いもあってカオヤイでグランピングをする機会に恵まれた。
カオヤイといえば「タイの軽井沢」として知られる広大な国立公園。正式名称を「ドン・パヤーイェン・カオ・ヤイ森林群」といいその総面積は2,168km²にもおよぶ。カオヤイの意味は“大きな山”。訪れてみるとわかるが、山間部の存在感が薄いタイにおいて山を感じることができる数少ないデスティネーションだ。軽井沢に例えられるのはカオヤイがたんなる山間の土地だからではなく、そこに点在するアクティビティの洗練さにある。もちろん気候もバンコクなどに比べると過ごしやすいのだが、それでもやはり暑い。でも、11月も後半になり乾季に入るとタイとは思えない涼やかな気候となる。
僕が訪れたのは10月の下旬で雨季の終わる頃。夜中には雷鳴と共に激しいスコールが降ったが、エアコンまで完備したゴージャスなテントにいれば篠突く雨を肴にワインを飲む余裕さえ持てる。宿泊したのは「Lala Mukha KhaoYai(ララムカ カオヤイ)」という名のカオヤイでも一番人気のグランピング施設。グランピングを絵にかいたようなリッチなテントが点在し、カオヤイの大きな自然に溶け込んでいる景観は、日本のそれらよりも規模が大きくほど良くプライバシーも守られている。
僕が泊まったのは小さい間取りのテントで、それでもリビングとして使える空間と寝室とに分かれている。テントの前にはたっぷりとした屋根付きのテラスが張り出し、雨が降ってもそこで食事をしたりして過ごすことができる。キャンプというとどうしてもワイルドな野営をイメージしてしまうがここはそうではない。自然の懐を借りながら、ちょっと贅沢な非日常を味わえるある意味特別な世界である。
そして、なによりも感動的だったのが早朝だ。バンコクでは聞いたこともない鳥の鳴き声で目が覚めテントから外へ出てみると、そこはまるで桃源郷のような世界。朝露に輝く草木が呼吸しているのがわかるというのか、植物たちが生きていることをはっきりと感じることができる。空気が濃く、敷地内を流れる川にはうっすらと霧がかかり早朝のカオヤイを演出していた。
カオヤイはワイナリーが多いことでも知られている。その歴史は浅く、多くのワイナリーが2000年代に入ってから造られたもの。中でもPBバレーというワイナリーはイタリアなどのそれをよく研究していて、ゆるやかな丘陵地帯に葡萄の木が美しくレイアウトされていた。グランピングを終えバンコクへ戻る日の午後、このワイナリーに寄ってみた。トスカーナ産の葡萄だという赤を含むと口の中に“タイにいる幸せ”が広がった。僕は心地よい酔いと一緒にカオヤイを後にした。
吉田一紀
国立公園内は遊歩道が完備されていて、うっすらと茂る森の中をのんびりと散策できる小さいがプールもありリゾート感を演出。施設内で終日を過ごすには十分なファシリティが整っている






