11/26/2024

【カオヤイ】初めてのグランピング

日本ではかつてのキャンプブームにあやかって、ひんぱんにキャンプに出掛けていた時期がある。テントはもとより、ランタンや調理器具などを当時乗っていた4輪駆動車に満載し、富士山のふもとのキャンプ場などでかなりワイルドな野営をして楽しんだものだ。

タイに住んでからはどうかといえば、年間を通じて暑いのと、地方へ出かければ何もキャンプをしなくても、リゾート施設のバンガローなどに泊まれば自然をたっぷりと味わえるのでキャンプからは遠ざかっていた。

ところが数年前からタイでもキャンプがブームとなり、中でもゴージャスなグランピング施設が注目を浴びるようになっている。僕はグランピングの経験がなく気になっていたところ、友人の誘いもあってカオヤイでグランピングをする機会に恵まれた。

カオヤイといえば「タイの軽井沢」として知られる広大な国立公園。正式名称を「ドン・パヤーイェン・カオ・ヤイ森林群」といいその総面積は2,168km²にもおよぶ。カオヤイの意味は“大きな山”。訪れてみるとわかるが、山間部の存在感が薄いタイにおいて山を感じることができる数少ないデスティネーションだ。軽井沢に例えられるのはカオヤイがたんなる山間の土地だからではなく、そこに点在するアクティビティの洗練さにある。もちろん気候もバンコクなどに比べると過ごしやすいのだが、それでもやはり暑い。でも、11月も後半になり乾季に入るとタイとは思えない涼やかな気候となる。

僕が訪れたのは10月の下旬で雨季の終わる頃。夜中には雷鳴と共に激しいスコールが降ったが、エアコンまで完備したゴージャスなテントにいれば篠突く雨を肴にワインを飲む余裕さえ持てる。宿泊したのは「Lala Mukha KhaoYai(ララムカ カオヤイ)」という名のカオヤイでも一番人気のグランピング施設。グランピングを絵にかいたようなリッチなテントが点在し、カオヤイの大きな自然に溶け込んでいる景観は、日本のそれらよりも規模が大きくほど良くプライバシーも守られている。

僕が泊まったのは小さい間取りのテントで、それでもリビングとして使える空間と寝室とに分かれている。テントの前にはたっぷりとした屋根付きのテラスが張り出し、雨が降ってもそこで食事をしたりして過ごすことができる。キャンプというとどうしてもワイルドな野営をイメージしてしまうがここはそうではない。自然の懐を借りながら、ちょっと贅沢な非日常を味わえるある意味特別な世界である。

そして、なによりも感動的だったのが早朝だ。バンコクでは聞いたこともない鳥の鳴き声で目が覚めテントから外へ出てみると、そこはまるで桃源郷のような世界。朝露に輝く草木が呼吸しているのがわかるというのか、植物たちが生きていることをはっきりと感じることができる。空気が濃く、敷地内を流れる川にはうっすらと霧がかかり早朝のカオヤイを演出していた。

カオヤイはワイナリーが多いことでも知られている。その歴史は浅く、多くのワイナリーが2000年代に入ってから造られたもの。中でもPBバレーというワイナリーはイタリアなどのそれをよく研究していて、ゆるやかな丘陵地帯に葡萄の木が美しくレイアウトされていた。グランピングを終えバンコクへ戻る日の午後、このワイナリーに寄ってみた。トスカーナ産の葡萄だという赤を含むと口の中に“タイにいる幸せ”が広がった。僕は心地よい酔いと一緒にカオヤイを後にした。

吉田一紀

国立公園内は遊歩道が完備されていて、うっすらと茂る森の中をのんびりと散策できる


渓流の流れで涼をとれるのもカオヤイの魅力。季節によって水量が異なる


カオヤイ国立公園は2005年に世界自然遺産に指定されている。これはその記念碑


「Lala Mukha KhaoYai(ララムカ カオヤイ)」の施設内にはゴージャスなテントが点在する。テレビ、エアコン、ベッドは標準設置。大型のテントはバスルームも備えている


小さいがプールもありリゾート感を演出。施設内で終日を過ごすには十分なファシリティが整っている



「PBバレー・カオヤイ・ワイナリー」。斜面を利用した葡萄畑が美しい


葡萄畑を眺めながらのワインは格別。ワイナリー内を巡るツアーも用意されている





10/11/2024

【タイ旅のすすめ】いつも旅の途中

人というのは、インプットとアウトプットを繰り返して学習していくという。だから、インプットの量がいくら多くても、アウトプットをする機会が少ないと、人の学習能力はなかなか成長しない。

これは、養老孟司が何かで話していたことで、例えばよく笑う赤ちゃんというのは、母親をはじめとした周囲にいる人がよく笑うからで、その笑顔を無意識に真似して笑うのだそうだ。だから幸せそうにけらけら笑う赤ちゃんは、笑顔の絶えない環境で育っているといえるだろう。

さて、人にとってインプットの機会というものはたくさんあるが、旅もその一つだと思う。旅をしている時の情報流入量はかなりなもので、その情報を逐一処理しながら人は旅を楽しみ学習していく。そんな情報処理が面倒くさいと思う人もいるかもしれないが、旅の愉しみのファクターとして、調べごとの楽しさがあることは確かだと思うがいかがだろうか。

よく「旅を通じて見聞を広げる」といわれるが、まさにこれがインプットとアウトプットの連鎖であり、旅は格好の脳の鍛錬だといえるだろう。

さて、そろそろタイはベストシーズン。天候のコンディションにもよるが、まるで日本の初夏のような爽やかな気候の中、思い思いの“旅心”を携えて旅に出てみませんか。

考えようによっては、海外に住むことも旅の一つかもしれません。ただ、じっとしているだけではインプット量もアウトプット量も減るばかり。海外在住を旅の途中だと思って、次の旅先に思いを巡らせる昨今です。

吉田一紀


バンコクの基点駅とも言えるタイ国鉄の「フアランポーン」。日本製の蒸気機関車が情緒たっぷり


10月も半ばになると晴れた日にはまるで日本の秋のような空となる。空は世界中とつながっている

アユタヤ遺跡群も過ごしやすい気温となるこれからがベストシーズン



10/08/2024

【プーチーファー】ラオス国境で見たご来光

ある年の12月。チェンライから東に向かい、ラオスとの国境をなめるようにして巡る旅をしたことがある。途中にはあのゴールデントライアングルもあり、タイ国内の未知の地を巡る初めての本格的な旅だった。最終目的地は国境にそびえるプーチーファーという標高1628メートルの山の頂上だった。タイは乾季を迎えたハイシーズン。チェンライの気候も心地良かったのだが、これを甘くみていたために、後で「寒い目」に会うことになるのだ。

まず、チェンライ市内で温泉に入りさっぱりした後、食事を軽く済ませてから4輪駆動車を受け取り、旅は始まった。ゴールデントライアングルを過ぎる辺りから、道路周辺には民家も少なくなり、風景はいかにも山道という体をなしてくる。国境に接している道ということもあり、途中で何回か警察の検問を受けた。自分でピックアップを運転してこんな辺鄙な場所を走る外国人はそういないだろうから、彼らはさぞ不審だと思ったことだろう。

まるで箱根の旧道のような佇まいのつづら折りの山道を登り、目的のプーチーファーの登山口に着いたのは昼過ぎ。食事の前に宿を探そうということになり周辺を歩くと、「ホットシャワー有ります!」という大きな看板を掲げた宿があり、迷わずそこにチェックイン。後でわかったのだが、温かいシャワーが出るのは水温が高い日中だけで夜はほぼ冷水。これが「寒い話」の始まりだった。

「ホットシャワー」という名の冷たいシャワーを鳥肌を立たせながら浴び、明朝が早いこともあり、床につくことにした。寝具はB&Bにありがちな薄っぺらの毛布が一枚だけ。そこに潜り込むわけだが、寒くて眠れない。ユニクロのスウェット上下をパジャマ代わりに着ていたのだが寒くて眠れない。こんな目にこのタイランドで会うとは想像すらしていなかった。これが「寒い話その2」である。

翌朝は5時前に起床し、宿の管理事務所の前で同行メンバーと落ち合った。そこで「あれ?」と思ったのが彼らの出で立ちである。二人ともなんとダウンジャケットを着ている。こちらは少し厚手ではあるがフード付きのヨットパーカー。彼らに「上はかなり冷えるよ」と言われていたが、タイでダウンジャケットを着るシチュエーションなどあるはずないと思っていたから仕方ない。

じつはバンコクを経つ前に「寒くなるから暖かい服を持ってきて」とは言われていた。しかし知ったかぶりの僕は、これで十分だろうとヨットパーカーしか装備してこなかったわけだ。とにかく白い息を吐きながらプーチーファーの登山道を登り、頂上に着いた。ここでご来光を見るのが旅のクライマックスなのだが、とにかく寒い。僕は東の雲海から登ってくる朝日に手を当てるようにして暖を取ってみた。体は冷えたままだったが、神々しい景観に少し目頭が熱くなった。これが「寒い話」のクライマックスである。

タイ国内で出かけてみたい場所はたくさんあると思いますが、みなさんも山間部に出かける際には服装にご注意を。ほんとうに寒いです。

吉田一紀


プーチーファーの山頂付近からの絶景。国境の山々が雲海に隠れている


あいにくの薄曇りだったが山間に陽が昇る様は圧巻だった


ご来光を求めて山頂を訪れたたくさんの人々。国籍も様々だ


太陽が完全に登ると気温も上がりなんと足元に雲海が。少しふざけたポーズでおどけてみる



10/04/2024

【ロイエット】力強く生きる人たちと美しい風景

一昨年の10月、初めて東北部イサーン地方のロイエットまで出かける機会があった。途中のブリラムやコラート(ナコーンラーチャーシーマー)では、雨季の最後の大雨によって洪水に飲み込まれた集落を見た。洪水とはいっても激流のように水が流れるものではなく、それは静かに広大な水たまりを作っていく。時間をかけてゆっくりと水田を水で満たし、人々の生活に濡れ縄で締め付けるようにしてダメージを与えていく。

僕はそこをピックアップを運転して通過したのだが、ピックアップの大きなタイヤが半分以上水に浸かり、まるで池のようになった道路を走るのは少し不安だった。水がクルマの底を打つ音が響き、時々車体が浮くような感じがする(実際にクルマには浮力があるから水位が高いと浮いてしまう)。それでも初めて見聞きする光景や音を記憶に止めようと一所懸命になっていた。

そんな状況の中、集落に住む子ども達がプールと化した庭先で水に浸かって遊んでいるのを見ていると、なんだか強くて豊かだなと感じた。人なんて常に外から入ってくるものに影響されている。穏やかなのが一番なのかもしれないが、何か外的要因に影響されることで人は強くなり、場合によっては豊かになったり美しくなったるするのだと思う。

毎年、雨季の今頃になるとこの時の光景を思い出す。今までタイで過ごして想ったことを改めて反芻してみると、このロイエットへの旅が最もインパクトのある体験だったような気がする。

タイに住んでみて想うことはいろいろあるが、人や社会というのは外側から来る危機に対しては、それなりに抵抗する術を知っているなと感じる。そして、人の一番の弱さというものは自分の中にあり、それを克服するのはなかなか容易なことではないと言われる。やっかいなことだけど、それが人の魅力にもつながるのかな、なんて感じている。

吉田一紀


ロイエットの水につかった水田。こうなってしまうと収穫は見込めないという


水につかった道路を抜けるとまるで西部劇に出てきそうな夕焼けが見えた


ロイエットの民家で飼われているタイの牛。これぞ癒しという光景である

10/03/2024

【タイのタクシー】アメージングなタクシー

タイのタクシーは何かと評判が悪い。巷で囁かれている悪評ほどではないにせよ、僕自身もタクシーではいろいろな体験をしてきた。

タイへ通い始めた頃は、空港からスクンビットへ向かうタクシーに乗るのがストレスで、渡航する前の日から気になって仕方がないほどだった。だったら、違う交通機関を使えばいいじゃないかと言われそうだが、鉄道だと荷物を運ぶのが億劫だし、空港リムジンだと費用がかさばる。それで仕方なくタクシーを利用してきた。

それが通い始めて10年も経つと心配はどこかへ行ってしまい、今度はいったいどんな運転手のクルマに乗るのかが、不安から楽しみへと変わってくるから不思議なものだ。あまりに悪質で酷いのは困るが、次にいくつか挙げたようなものだったら、もう笑い話にできる。

僕の中での「アメージングなタクシーランキング」第1位は、お腹を壊している運転手のタクシー。人の不幸を笑うのは良くないけど、思い出すたびにおかしくなる。そのタクシーにはスワンナプームから乗ったのだが、乗車した途端に「トイレに寄ってもいいですか?」というから了承した。しかし、空港近くのガソリンスタンドで用を済ませて、また10分も経たないうちに「もう一度トイレに行きたい!」と言う。最初は新手のインチキタクシーかと思ったのだがそうではなく、本当に具合が悪いらしく、彼は3回目のトイレでついに他のタクシーに頼み、僕を預けてトイレから出てこなくなってしまった。

他にも、かなり頑張ったけどやっぱりガス欠になっちゃったタクシーとか、ミッションオイルがへたっていて勾配を登れないタクシーとか、クルマの中でオウムを飼っているタクシーとかあって、ちょっとした連載が書けるほどネタがある。そしてじつは「アメージングなバイタクランキング」というのもあるのだが、これも別の機会に書くことにする。

吉田一紀

バンコクのタクシーを象徴するのがピンクのタクシー。最近はEVタクシーも多く見受ける用になってきた


バンコクをやはり象徴するバンコク名物の渋滞。朝夕・ラッシュ時のタクシー利用は避けたほうがいいかもしれない


残念ながらオウムを撮れなかったのが、これが「オウムを飼っているタクシー」。ドライバーも雰囲気たっぷり



10/01/2024

【タイの食】旅のおかず

旅の楽しみの一つと言えば、やはり「何を食べるか」がプライオリティの上の方にくるように思う。その点、タイには美味しい食べ物が多く、旅ならずとも住んでいても楽しみには事欠かない。

旅行や出張で海外へ出ると、見るもの食べるもののほとんどが珍しく、片っ端から見て食べてきたものだが、僕はそんな旅先での食事を「旅のおかず」と呼んでいる。

その点、タイは「旅のおかず」がかなり充実していて、冒頭にも書いた通り、日常のおかずにも美味しいものが揃っている気がする。

タイ料理という括り方が自分の中で今ひとつはっきりとしないが、例えばバンコク都内でも日本人をはじめとした外国人が多く居住するスクンビット。そのスクンビット26(BTSプロンポン駅近く)にあるクイッテアオウ(小麦や米の面を使ったラーメンのようなもの)の超有名店の「ルンルアン」なんかは、最初に食べた時にはびっくりした。無礼な言い方だが「なんでこんな店に、こんな美味いものがあるんだ」と思った。

野暮用があって出かけたBTSのセナニコン駅近くにある「モンコンワッタナー」のカオマンガイも、蒸し鶏をのっけただけのご飯が、なんでこんなに美味しいんだと絶句した。まあ、こんな場所まで日本人はなかなか出かけないだろうから、知らない方も多いと思う。とにかくバンコクというのは間違いなく美食の街。ミシュラン掲載店なんていうのも多いのだが、何でもない構えの古ぼけた店で出すものが“絶品”なんていうこともけっこうある。

最近感動したのは、ペッチャブリー県の山の中で、観光農園のおばちゃんが作ってくれたトムカーガイ。これは涙が出るほど美味しかった。もともとホワイトソース(この料理はココナッツ)のスープは好きなのだが、あれはタイ料理というよりも西洋の料理に近い気がする。だからきっと「世界最高のチキンスープランキング(Best Rated Chicken Soups in the World)」で第一位の栄冠に輝いたのだろう。タイという文化は、本当に何もかも飲み込む。そしてタイの文化や歴史を適度に織り込んでから巧みにアウトプットする。

吉田一紀


ペッチャブリーの観光農園で出してくれた昼食。左下が“奇跡のトムカーガイ”


「トムカーガイ」に使われる素材やスパイスの一部。これらが絶妙なハーモニーを奏でる


日本人にも好きな人が多い「パッタイ」。これはアントーンにあるタイのパッタイ大会で優勝した名店のもの


タイ北部の入り口にあるナコンサワンでよく食べる「ガオラオ」。澄んだガラ炊きスープに大根やルークチン(鶏や豚の肉団子)が浮かんださっぱり味のメニュー


9/22/2024

【旅の目的】タイに来たら僕たちは何をすればいいのでしょうか?

 


タイに来たら、いったい何をすればいいのか。こんな質問をされてもうまく答えられないというのが本音だ。僕自身、タイに通い始めた頃はいつも成り行きで過ごしていたもので、バンコクにいる友人や知人が連れて行ってくれる場所へ行って、そこで見たものや食べた物を記憶に刻んで重ねてきた。

ワットポー、ワットアルン、ワットプラケオ、チャオプラヤー、ヤワラート、カオサン...バンコクではそんな有名な観光地には最初の頃に一通り連れて行ってもらった。これらのどれも素晴らしいというのかタイらしいというのか、もちろん出かけてみる価値はある。ただ、ここへ行くことが「何をすればいいのか」の答えになっているのかというと、はっきり言ってあまり自信を持てない。

なので、タイへ来る人はとりあえず“目的”をつくっておいた方がいいと思う。特に初めてタイへ来る人はタイ国政府観光庁のサイトなどを見て、タイを訪れるための目的のようなものを見つけておくのがおすすめだ。じゃないと、2泊3日なり3泊4日の旅がどうしてもぼんやりとしたものになってしまい、限りある日程を無駄に過ごすことになりかねないからだ。

じゃあ、目的としてはどんなものがあるのか?それを3つだけ挙げてみるが、これはあくまでも僕の主観。ヒントにしていただき、何か素敵な目標をつくってみてください。

1.美味しいものを食べる:これはどんな国を訪れても王道の目的かもしれない。特にタイは食べ物が相対的に美味しいから、短い日程だったらとにかく食べまくるのもありだと思う。よく“タイ料理”はひとくくりにされるが、地方によって味付けはもちろん素材にも違いがある。そのあたりも少し予備知識を付けてからいろいろ食べてみることをおすすめする。

2.寺院を訪れる:タイ(バンコク)に来てみておそらく最も目にすることが多い建物は寺院だと思う。冒頭に書いたワットポーやワットアルンは観光地としても有名な寺院だが、これら以外にも素晴らしい寺院がたくさんある。僕は宗教家ではないが、宗教の持つ“ストーリーや芸術性”には少し興味があり、地方へ行った際にも気なる寺院があれば寄ってみることにしている。一つひとつの寺院の屋根のデザインの違いについて考えたり、托鉢(僧侶や寺に寄進すること)をしてみるのもいいかもしれない。もしかしたら忙しすぎる普段の生活の中に何か違う価値観を見いだせるかもしれない。

3.友人をつくる:これは少しハードルが高いかもしれない。言葉の壁もあるし、友人になれそうな人と知り合いになれるかどうかだってわからない。ただ、運よくそんな人と出会えたなら、その旅はきっと素晴らしいものになるはずだ。気をつけなければならないのは、そこへ付け込んでくる良からぬ輩もいるということ。だから考え方を変えると、友人をつくるということは“人間観察”の良い機会になるということ。タイ(バンコク)の人たちはどんな気質でどんな生き方・考え方をしているのかを知るきっかけにもなる。彼らは僕たち日本人とは決定的に異なる部分もあるので、それを探ってみるのも面白いだろう。

吉田一紀

バンコクから約1時間。バンセーンという海沿いの街で


タイを代表する寺院「ワットプラケオ」。1782年にラーマ1世が現在の王朝であるチャクリー王朝を開いたときに護国寺として建てた寺院。通称・エメラルド寺院
 

タイを代表する鍋料理といえばこの「チムチュム」。イサーン地方(タイ東北部)の有名料理で、淡い味のハーブの効いたスープで具を煮て、ナムジムという甘辛いタレで食べる


9/12/2024

【ホアヒン】プリンスたちの見た景色

君は雨を見たかい。そんなタイトルの有名な曲がある。CCRというバンドがヒットさせた往年の名曲である。それを洒落て、かなり若い時に「君は海を見たかい」という曲を書いたことがある。世界は海でつながっていて、君が今見ている海のずっとむこうにも他の誰かが見ている同じ海の景色があるんだ。そんなたわいのない歌詞だったが、自分が作った曲の中ではわりと好きな曲だった。

2020年からバンコクに住み始めておおよそ2年経った頃に、タイ国政府観光庁のメディアトリップに参加してホアヒンの海を訪れる機会があった。もともと海辺の街で幼少期から二十歳すぎまでの多感な時期を過ごしたこともあり、海はアクティビティのためにあるというよりも、その存在感を感じるだけで安心できる情景のようなものだと思っている。ホアヒンは僕のそんな気持ちにぴったりと寄り添ってくれるような素敵な海だった。

ホアヒンは広く知られているように、王室の保養地として古くから栄えてきたリゾート地。プラチュアップキリカン県というなんだか舌をかみそうな名の県に属し、美しく静かなビーチと共に歴代王の凝った造りの離宮などが有名だ。ビーチ沿いにはラグジュアリーな高級ホテルが建ち並び(とはいってもとても控え目に建ち並んでいる)、名門ゴルフコースやワイナリーなどもあって、「優雅なタイの休日」を過ごすには十分すぎるロケーションが揃っている。バンコクからは自分で運転するクルマでもおよそ3時間ほど。東京都内に住んでいる人が、ちょっと頑張って伊豆にでも出かける感覚でアクセスできるところもいい。

さて、メディアトリップで訪れた二度目のホアヒンは、当時新しくできたばかりの「The Standard Hua Hin」に宿泊した。これが素晴らしいホテルで、個人的な好みもあると思うが、いくつかの低層の建物で構成されたリゾートホテルで、高級ホテルにありがちな威圧感がないところがとても気に入った。オープンエアのレセプションでチェックインを済ませると可愛らしい木製のカードキーを渡され、ホテルの敷地の中へと進む。海辺らしい大きな葉の植栽の間を抜けると宿泊棟がある。敷地内にはペットを同伴できるヴィラもあり、そこには長期滞在している欧米人の家族が何組か泊まっていた。

部屋は各階とも外に面した通路沿いにレイアウトされていて、なんだか地中海あたりにありそうなビーチリゾートホテルの様式に似ているし、海の匂いや風を感じながら自分の部屋にアプローチできるのもなんだかわくわくする。きっとこのホテルを設計した人は相当な海好きで、海のそばで過ごすことの本来の醍醐味を知っている人なのだと思う。部屋はいたってシンプルで清潔感に溢れている。そして何よりも外光がたっぷりと入る大きな窓が嬉しい。インテリアは白と淡いオレンジでコーディネートされていて、高級なカジュアルといったイメージ。まあ、こんなロケーションで過ごしていて部屋にじっとしていることもないだろうから、雰囲気を含めたすべてがちょうどいいといえるかもしれない。

そして、ビーチである。「このホテル、やるなぁ」と感じたのは、宿泊棟のあるエリアからビーチへとアプローチする間の演出だ。白い壁に囲まれ南洋植物がうっそうと茂る小路を抜けると、そこには突然どかんとホアヒンの海岸が広がる。オーシャンビューの部屋もそれはそれで素晴らしいが、僕はこのような思わせぶりなディレクションに軍配を上げたくなってしまう。では海の方はどうかといえば、これはもう絶賛するしかない。砂浜は広く長く続き、まるで空から天使でも降ってきそうな佇まいだ。こんなにゴージャスな砂浜は久しぶりに見たような気がする。早朝、東向きのビーチからは南国の朝陽が昇り、聞こえるのは鳥の鳴き声と穏やかで小さな波が砂浜を走る音だけ。この景色のちょうど反対側には、喧噪のパタヤビーチがあると思うと、「こっちにいて良かった」と思うのは僕だけではないはずだ。

僕がこのホアヒンから持ち帰ったものはこの海岸の記憶だけだ。その風景には匂いと音と光と、肌や足の裏がとらえた感触で、その記憶は“思い出”として心のどこかに残るはずだ。歴代のプリンスたちがこの景色を見て、何を思い何を夢見たのか。僕にはそれを知るすべはないが、そんなことを想像してみるだけで旅は断然面白くなり、知らぬ間に人生にオーバーラップしてくるのだから不思議だ。

吉田一紀



「The Standard Hua Hin」のエントランス。ロゴを逆さにしているのが粋

 
部屋のカードキーは木製。持ち帰りたくなほど可愛い


レセプションはオープンエア。こんな空間でチェックインできる


大きな窓、白とオレンジでコーディネートされた部屋。広いベランダが付く


白い壁の間を抜けて庭園へ入っていく




この木立の向こうにビーチが広がる


お洒落なビーチハウスがある。引潮になるとビーチはぐんと広くなる


ホテル専用のビーチチェアも用意されている


レストランは3つあり、これはビーチサイド。外のテラスでも食事ができる